不妊外来

受精卵凍結

ヒト胚凍結とは

世界で初めて1983年に妊娠例が、1984年には出産例が報告され、以後多くの生命が誕生しております。また、2008年の日本産科婦人科学会の会告により胚移植数は原則1個に制限されていることから、採卵周期に得た余剰胚の凍結保存が必要であり、現在では胚凍結は生殖医療に不可欠な技術です。更に、胚を凍結せずに採卵周期に移植を行い(新鮮胚移植)妊娠が成立した場合には、妊娠性ホルモン(hCG)の影響で卵巣過剰刺激症候群(OHSS)が重症化するリスクがあること、採卵後の子宮内膜の状態やホルモンバランスの影響により、新鮮胚移植の妊娠率は凍結融解胚移植のそれに劣るとされていることから、最近本邦では新鮮胚移植をせずにまず全ての胚を一度凍結する(全胚凍結)ことが主流となってきています。
なお、前述の通りに移植する胚は原則1個ですが、35歳以上の方、または2回以上続けて妊娠不成立であった方については2個の移植も可能ですので、ご相談の上決定させて頂きます。

胚(受精卵)凍結保存の適応

  1. 採卵数が多いなどの理由で、新鮮胚移植を行うと卵巣過剰刺激症候群(OHSS)を起こす可能性が高く、新鮮胚移植を行うことが望ましくない場合。
  2. 複数の胚が得られたことで、新鮮胚移植を行った後に余剰胚が生じた場合。
  3. 新鮮胚移植を予定していたが、子宮内膜が薄い、出血や感染兆候を認める、または体調不良等で採卵周期での移植が望ましくないと判断した場合。

卵子凍結

当院では東京都の卵子凍結事業に参加された方のみ対応しております。 詳しくは下記URL参照ください。

《東京都卵子凍結事業》
https://www.fukushi.metro.tokyo.lg.jp/kodomo/shussan/ranshitouketsu/touketsu/gaiyou.html

《卵子凍結を使用した生殖補助医療への助成》
https://www.metro.tokyo.lg.jp/tosei/hodohappyo/press/2023/09/15/05.html
※東京都卵子凍結事業の説明会に参加された方のみ

凍結保存の方法

1.凍結保存

凍結保護剤を用いて胚を急速ガラス化法で凍結し、液体窒素(-196℃)にて凍結保存します。凍結胚は、パソコン及び凍結台帳に、氏名、診察番号、保管場所、凍結胚の状態、個数などの情報を記録し、施錠を行った上で厳重に保管されます。

2.凍結胚の融解

凍結胚の融解は急速融解法を用いています。この方法では胚を液体窒素内から常温へ急速に移し、融解させます。凍結胚は凍結及び融解の際にまれにダメージを受けることがあるため、融解した胚がすべて生き返り、良い状態で分割が進むとは限りません。融解後しばらく培養し、最終的な状態を確認して移植を決定します。胚の状態が不良で移植が不可となった場合、追加で他の凍結胚の融解が必要となることや、余剰胚がなければ移植がキャンセルになることがあります。

3.融解胚移植

胚移植は大きく分けて以下の2つの方法があり、妊娠率に差はないと報告されていることから、予定が立てやすく通院回数も少ない2)のホルモン補充周期の胚移植を当院では主に採用しています。

  1. 自然排卵周期の胚移植
    自然排卵または排卵誘発剤(内服及び注射)を併用した排卵に、タイミングを合わせて胚移植する方法です。排卵を確認した後に、胚のステージと子宮内膜を同期させて凍結胚の融解・培養を行い移植します。移植後は採血にてホルモン値を確認し、必要に応じて注射剤を投与します。メリットとしては、妊娠成立後の妊娠維持のための薬剤が不要なことがあります。デメリットとしては、排卵日の確認のため排卵日前の来院回数が多くなり、移植日の数日前にならないと移植日を決定できないことがあります。
  2. ホルモン補充周期の胚移植
    排卵を起こさせずに卵胞ホルモンにより子宮内膜を増殖させ、黄体ホルモン剤の開始日を排卵日として計算し、胚移植する方法です。メリットとしては、移植周期の月経が開始した時点で移植日を決定できることがあります。デメリットとしては、移植周期中は妊娠成立後も含めてホルモン剤の投与が必要なことがあります。

凍結保存の成績

当院における融解後の胚の生存率は約95%となっております。

凍結保存の期間

胚の凍結保存期間は原則として1年ですが、延長して保存することも可能です。延長をご希望の方は必ず期日までに受診して延長の手続きを行ってください。また、保存延長を希望せず余剰胚の廃棄を希望される方は、必ず期日までにお電話でご連絡下さい。期日までに延長の受診が無い場合は、延長希望のないものとして保存を中止し廃棄させていただきます。保存期間の更新は1年毎で、保存期間終了日より1ヶ月前から更新可能となっております。

凍結保存終了について

以下のいずれかの条件に当てはまる場合、凍結胚は廃棄となり以後に融解胚移植は実施できません。

  • ご夫婦が離婚された場合やご夫婦のどちらかが死亡された場合、または消息不明となった場合
  • 患者様が生殖年齢を超えた場合
  • 妊娠により患者様の生命に危険が及ぶと予想されるような場合
  • 患者様の希望により凍結胚を廃棄した場合
  • 期限までに凍結延長の手続きがされなかった場合

胚(受精卵)・卵子の凍結保存および融解・胚移植の危険性について

凍結保存のリスク

  1. 凍結胚の障害
    凍結融解操作の過程で氷晶、低温、耐凍剤に由来する障害を受ける可能性があります。
  2. 透明帯の硬化
    耐凍剤や凍結保存によって透明帯が硬化することがあり、着床不全の原因となる場合があります。対策として、融解後の胚にアシストハッチング(孵化補助)を施行することが挙げられます。
  3. 先天異常
    現時点では凍結胚による出生児とそれ以外の出生児との先天異常の発生率はほぼ同等といわれています。しかし臨床応用されてからまだ歴史が浅い治療方法であるため、出生児の身体的、精神発達上の問題点や長期の影響(次世代、次々世代)については不明である点をご了承下さい。
  4. 不測の事態による影響
    凍結胚の管理には、厳重な体制をとっており、半永久的に保存が可能です。しかし、地震や火災などで凍結容器の破損や転倒などがあった場合、水害などで凍結容器が水没してしまった場合など、不測の事態による影響は回避できないことも有り得ることをご理解くださるようお願い申し上げます。
    また、当院が閉院となる場合は事前に連絡をいたします。ご希望があれば他院へ凍結胚を移送する手続きをとらせていただきますが、移送中、移送先での胚へのダメージなども考えられる事をご了承下さい。また、何らかの理由(院長の急死など)で当院が突然閉院となった場合、凍結胚の移送もできなくなることがありますので何卒ご了承ください。
    この治療は医師と患者の説明と同意に基づく治療契約となります。十分ご理解いただけるようお願い申し上げます。

※他の代替的な方法
新鮮胚移植を行うことになります。ただし、状況によっては卵巣過剰刺激症候群(OHSS)の発症の危険性を高める可能性があり、また胚凍結を全く希望されない場合は、余剰胚を廃棄しなければなりません。
※同意の自由
同意書をいただいた後でも、同意を撤回することはできます。その場合は担当医と、よくご相談ください。また、同意をしなくても、今後の当クリニックでの治療において不利益を受けることは一切ありません。
※緊急時の対応について
胚(受精卵)・卵子の凍結保存および融解・胚移植を実施中に予期せぬ事態が発生した場合は、担当医が最善の対処を致します。処置内容などについては担当医の判断にお任せください。
※カウンセリングの機会について
当院では、患者さんの悩みや不安に関してのカウンセリングは治療に直接携わるものとして医師や看護師が随時行うべきと考えており、心理カウンセラーはあえておいておりません。ご不明な点や心配なことがありましたら、いつでもお気軽にご相談ください。
※学会への報告義務・個人情報の保護について
当院では個人情報保護法に基づいて医療情報の管理を行っており、個人情報の保護に厳重な注意を払っております。治療を施行する際にも、個人情報の守秘義務を遵守します。
医学・医療の発展のために、治療経過に関する情報を日本産科婦人科学会に報告しており、治療成績等の統計結果を学会に発表させて頂きますが、匿名性を保ち、個人情報の保護に努めます。

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